東日本大震災から10年。犠牲者鎮魂のための小説です。

表紙写真は最終章章題と同じ「志津川の海」です

2021年3月11日言問学舎発行。B6判272ページ(うちカラー口絵32ページ)。消費税込1760円。
 2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震=東日本大震災では、1万8千人を超える方々の尊い命が失われ、未だに行方不明とされている方も、数千人と言われます。一度失われた命、愛しい人の笑顔を、ふたたび取り戻すことはできません。 

 当時は仙台から石巻へ向かう仙石線や、石巻線、気仙沼線、大船渡線、山田線、三陸鉄道南リアス線、北リアス線など、津波の被害を受けた太平洋岸の鉄道各線が各地区で寸断され、運休する事態となりました。その後各線は徐々に復旧していきましたが、気仙沼線柳津‐気仙沼間、大船渡線気仙沼‐盛間はBRT(バス高速輸送システム)に転換され、鉄道事業は廃止のやむなきに至ったのです。
 
 作品は1983年(昭和58年)から1987年(昭和62年)にかけての仙石線、石巻線、釜石線、山田線、三陸鉄道北リアス線、南リアス線、気仙沼線の各線と、その沿線を舞台としており、一人で旅をする青年英介が、各地の情景や、人々とのふれあいを経て、不本意な別れを強いられたかつての同級生早希子のために強く成長し、やがて彼女を迎えるまでの4年間の足跡の中に、三陸の海と鉄道をたたえる意欲作となっております。 

 表紙は小田原漂情自身が2020年9月26日・27日に現地を取材し、撮影した「志津川の海」の写真をベースにしています。また小田原が撮影してきた現在の三陸各地の写真に加え、三陸地方各地ご出身、在住の方々や企業、自治体からもご提供いただいた口絵写真をカラーページ32ページに掲載し、1984年4月1日に全線開通した「三陸縦貫鉄道」のかけがえのない歴史、また東日本大震災の被災の一端を長く伝えていくことを、出版のそもそもの目標としております。

 
 章構成と文章中に描かれている区間は、以下の通りです。 

一  時きざむ海         仙台-野蒜・宮戸島(奥松島) 

二  ゆくりなき会い       野蒜-石巻-女川 

三  山の果てに海ありて‐釜石   花巻‐遠野‐釜石 

四  春を呼ぶ風         釜石‐浪板‐宮古‐田老 

五  真直ぐなる意志       釜石‐陸前高田‐気仙沼・唐桑半島 

六  志津川の海         仙台‐小牛田‐前谷地‐志津川

 著者:小田原漂情は昭和63年(1988年)5月の第一歌集『たえぬおもひに』以来、現在まで電子書籍を含め16点の著書・編著書を出版しており(紙の本と電子書籍の重複分をのぞく)、『小説 碓氷峠』では、失われた信越本線横川‐軽井沢間の希少な鉄道線の魅力の上に、戦時下の若者の淡い恋を描き出して好評を博しました(2009年5月刊の芸文社『ノスタルジックトレイン№3』所収の「小説 鉄の軋み」はその姉妹篇で、のちに電子書籍化したものです)。 

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