OECD(経済協力開発機構)が実施する学習到達度調査(PISA)において、2018年に受験した日本の15歳の生徒の結果(学力)が、読解力で2006年以来の15位(57か国中)に転落したというニュースが、大々的に報じられました。大学入学共通テストの国語・数学の記述問題についても「白紙撤回」とされましたが、PISAでの読解力低下に「またか」と衝撃を受けた保護者のみなさまも多かったのではないでしょうか。

 その原因として、スマホやゲームが読解力低下に悪影響を及ぼしているという分析のほか、テスト(PISA)自体がIT機器による入力であるため、試験形式に対する習熟度の問題も関係している(だから過剰に心配することはない)との指摘もあるようです。ただ、生身の子どもたちに日々直接国語を教えている立場として、「読解力の低下」というひとつの結果があらわれたことに対しては、さもありなんと言わざるを得ません。現在の高校生・中学生・小学生の読解力、思考力が憂慮すべき状況にあることは、疑いないでしょう。

 これまでにもいく度か書いて来ましたが、十年ごとのスパンで20「00」年代、「10」年代と見た時に、明らかに後者の方が、子どもたちの読解力、国語力は低下していると考えられます。もちろん尺度はさまざまであり、何をもって「読解力、国語力の低下」と判断するかという定義も、明確なものではありません。ただ、次のような状態の子どもは、読解力、国語力が弱いだろうということは、言えるはずです。

①文中に明らかに書かれているのではない前提や背景を、読みとったり、推測したりすることができない。
②声に出して音読してはいるが、読み終わったあとに内容をたずねても、まったく答えられない。
③算数の文章題で、言葉で書かれている前提や条件を、図式的に思い浮かべることができない。

 00年代と10年代を比較すると、①~③、とくに②に該当する子が非常に多くなっているということを、私は強く感じています。すなわち、現在の子どもたちの読解力、国語力は、00年代とくらべてもはっきり低下しているのです。
 
 以前に私は、本コラム(当サイト)ほかで、スマホもさることながら生活、社会のあらゆる部面で、デジタル化、視覚化が進んでいることが、読解力低下の一因ではないだろうかと述べました。それとは別に、子どもたちの置かれている「勉強、学習」の面で見た時に、未だもって多くの学習の場、とりわけ国語においても、「答えを見つける勉強」が主であることに、今ひとつの大きな原因があるのではないかということを、ここでは表明しておきたいと思います。

 「PISAショック」が起こった2003年に、言問学舎は創業しました(会社設立は2004年)。その頃から数年間、「国語が苦手」と言って言問学舎の門をたたく子どもたち(親御さん)に、「いつから国語が苦手(きらい)になったか」をたずねると、だいたい小学2年の中ごろからという答えが多くみられました。あわせて学校の様子を聞いてみると、その頃から国語の授業でテストが多くなり、得点が低いので、どんどんいやになり、苦手になって行った、という傾向がつかめました。

 ところで近年は、小学校1年生でもテスト、テストに追われるような状況だということをよく聞きます。1年生の子が、「答えは文の中に書いてあるの?」と聞くことも、めずらしくありません。そして「1年生の時から国語が苦手だった」という中・高学年の子も、同じように多くなりました。00年代半ばに「2年生から国語が苦手(きらい)になった」という子どもが多かったものが、10年代後半になって「1年生から」に様変わりした感があります。

 先にあげた読解力、国語力不足の目印のうち①については、「行間が読めない」と言いかえて良いのですが、こうした子どもたちが「行間が読めない」のは、当然とも言えるでしょう。「行間を読む」とは、文章の表面に直接書いてあることがらだけでなく、そこにこめられた作者(筆者)の考えや思い、もっと言えば文章の奥から立ち上がってくるその文章の真の姿を、読みとることです。「答えを見つける勉強」の繰り返しでは、残念ながら「行間を読む力」は育てられません。

 もちろん「勉強」は、広範な領域にさまざまな角度から触れ、考えを立てて修正し、新しいことをも吸収して身につけてゆくものであり、ひとつのアプローチですべてが解決するものではありません。完成形、すなわち出口を見て進むのか、入り口、つまり導入部分を重視するのかという永遠の命題もあります。しかしながら、今の子どもたちの読解力、国語力を向上させるために必要なのは、まずアプローチの部分において、「答えを見つける」のでなく、文章を読み、それを心で受けとめて、自分の考えを立て、修正しながら表現していく、国語の本来の姿に立ち返ることなのではないでしょうか。

 言問学舎では、ことし2019年(平成31年・令和元年)、このことを体現した新機軸の国語教材『国語のアクティブラーニング 音読で育てる読解力』(高学年用=小学5年~中学2年対応1/中・低学年用=小学2年~4年対応1   言問学舎発行)を出版しました。読解力、国語力を向上させる決め手である、「行間を読む力」をはぐくむための勉強が、この本でならしっかりできます。高学年用は7篇、中・低学年用には8篇の親しみやすい物語が収められており(小田原漂情書き下ろし)、言問学舎の16年にわたる実践で磨き上げた「読解シート」を使って、書くことの苦手な子にも考える手がかりを見つけさせ、自分で感想文を書けるようにした、「行間を読み、自ら表現することができるようになる」画期的な国語教材です。

『音読で育てる読解力』の詳しいご案内は、どうぞこちらからご覧下さい。
http://www.kotogaku.co.jp/kokugo/text/index.html
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