『山月記』サポート篇②~李徴が虎になったくだりを読みこみましょう!

 『山月記』サポート篇第2回です。今回は、李徴が虎になったくだりを研究しましょう。

 李徴が実際に「虎になった」場面は、二面から描かれています。すこし、引用して対比してみましょう。A.冒頭からのつづきで、李徴の消息として伝えている部分、B.袁傪に李徴が告白している部分、として、対比します。

A‐①ある夜半、急に顔色を変えて寝床から起き上がると、何か訳のわからぬことを叫びつつそのまま下にとび下りて、
B‐①一睡してから、ふと目を覚ますと、戸外でだれかが我が名を呼んでいる。声に応じて外へ出てみると、

 李徴にしてみれば、自分を呼ぶものの声に応じて外へ出た、ということですが、彼の消息を伝えた汝水のほとりの宿の者から見れば、「急に顔色を変え」「何か訳の分からぬこと」を叫んだ、というふうにしか、とらえられなかったのです。李徴は何か、超常的なもの(虎の精、あやかしの神、自分の内なる狂気・・・いろいろ想像して下さい。ひとつの正解は、ありません)に呼ばれて、常人には理解できない、人間界と別の世界の境を、超えたのでしょう。

A‐②(①のつづき)闇の中へ駆け出した。
B‐②( 〃 )声は闇の中からしきりに自分を招く。覚えず、自分は声を追うて走り出した。

 傍目(はため)からは、訳もなく闇の中へ走って行ったとしか見えていないのですが、李徴自身は、闇の中から自分を呼ぶ声を追って、走って行ったのです。この時が、李徴が人間界に踏みとどまる最後のチャンスだったのですね。

A‐③彼は二度と戻ってこなかった。
B‐③無我夢中で駆けてゆくうちに、いつしか途は山林に入り、しかも、知らぬ間に自分は左右の手で地をつかんで走っていた。

 「左右の手で地をつかんで」のあたりで、李徴の体は虎に変じて行ったのです。そのまま人間界に「戻ってこなかった」のは、当然ですね。

 しかし李徴は、そのまま人々の記憶から消え去ることなく、袁傪という友人との再会(?)によって、人間界に、世にも不思議な「虎に変じた人物」として、再登場します。次回は袁傪と李徴のやりとりを、見て行きましょう。

※この記事は『山月記』をよりわかりやすく読むための「サポート篇」です。「中島敦の『山月記』読解の重要ポイントはここ!(読解本篇)」とあわせてお読み下さい。「サポート篇」第1回では、冒頭の難解ともいえる文章を、わかりやすく解説しています。

◇内容についてより詳しく知りたい方、他作品でも、国語の勉強についてご相談のある方は、お気軽に下記(言問学舎・小田原)までご連絡下さい。

TEL03-5805-7817 E-mail hyojo@kotogaku.co.jp

※5月16日(土)に、『山月記』の中間テスト対策をメインの内容とする、「体験学習会」を開催する予定です。詳細は、追ってご案内させていただきます。

書籍一覧 お問い合わせ
Top