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高校生の現代文テスト対策 森鷗外『舞姫』①豊太郎の気質その1
現在の高校2・3年生の「現代文」の教科書には、森鷗外の『舞姫』が掲載されており、多くは3年生の1学期に、授業で扱い、中間または期末テストの範囲にも、なることでしょう。そろそろ授業で『舞姫』を扱い始めている学校も、多いのではないでしょうか。
いまの高校生のみなさんにとっては、100%「古文」の内容ですから(そもそもすべて文語で書かれているのですが、私などが高校生の頃は、明治時代の文語体の小説ももっと多く当然のように読んだので、「古文」だという意識はなかったのです)、学校によっては「口語訳」することが授業の内容になっているケースもあると思いますが、本サイトでは、「国語教室 現代」として扱いますので、口語訳は必要な部分のみにとどめ、小説としての中身に踏みこんでみたいと思います。
なお、昨年度は夏目漱石の『こころ』について、何人かの方から、メールで内容に関するお問い合わせをいただきました。この『舞姫』についても、わかりにくいところ、解釈の仕方など、疑問や質問がありましたら、ぜひお寄せ下さい。
まず、はじめに主人公「豊太郎」の気質を押さえておきましょう。以下、本文を「 」で引用し、簡単な現代語訳を( )であとにつけます。「 」、( )のない部分は要約とします。今日のところは、エリスと出会う前までの部分です。
「余は幼きころより厳しき庭の訓(をしへ)を受けしかひに、父をば早く喪ひつれど、学問の荒み衰ふることなく」(私は幼少時から家庭で厳しい教育を受けた成果があって、父を早く亡くしたが、学問を投げやりにして力を衰えさせることなく)、旧藩校でも大学予備門でも、大学の法科に入ってからも、ずっと首席で、十九歳で学士の称号を受け、某省に勤めること三年、「官長の覚え殊なりしかば、洋行して一課の事務を取り調べよとの命を受け、我が名を成さんも、我が家を興さんも、今ぞと思う心の勇み立ちて」(官長に特に目をかけられたので、ヨーロッパに留学して官庁の一部門の仕組みを調べ上げて来るようにと命じられ、自分の名声を上げるのも、自分の家を興隆させるのも、今こそ、と勇躍心を奮い立たせて)、ベルリンに留学した。
すなわち、幼い頃から武士の家庭の厳しい教育を受け、母を喜ばせ、人に褒められるのを素直に励みとして勉学にいそしみ、役所に勤めてからは上司に目をかけられて、いわゆるエリートの道を疑いなく歩んで来た、英才なのです。
しかしベルリンの大学で、自由の風に吹かれること三年。順風満帆で疑いを知らなかった豊太郎も、徐々に自分に目覚めるようになります。
「かくて三年ばかりは夢のごとくにたちしが、時きたれば包みても包みがたきは人の好尚なるらむ、余は父の遺言を守り、母の教へに従ひ、人の神童なりなど褒むるがうれしさに怠らず学びしときより、官長の善き働き手を得たりと励ますが喜ばしさにたゆみなく勤めしときまで、ただ所動的、器械的の人物になりて自ら悟らざりしが」(こうして三年ほどは夢のように過ぎ去ったが、時が満ちれば包み隠そうとしても隠しおおせないのが、人間の好みや本質というものであろうか。私は父の遺言を守り、母の教えに従って、人が神童などと言ってほめてくれるのがうれしくて勉学に励んだ時から、官長が良い働き手を得ることができたと励ましてくれるのを喜びとして懸命に働いた時に至るまで、ただ受け身で機械的な人物となってしまって、自分では気づくことができなかったが)、いま二十五歳になって、ようやく「本当の自分」に気がついた。長くベルリンの大学の自由の風に吹かれたためだろうか。昨日までの自分は本当の自分ではなく、今の自分は昨日までの偽りの自分を攻めるようだ。
そして豊太郎は、これからの時代を動かす政治家にも、法律に精通して判決を下す裁判官にも、自分はふさわしくないと思いきわめ、法科の勉強より歴史や文学に関心を寄せて、もとのように生真面目な報告を官長に送る良吏では、なくなってゆきます。
初回の今日は、ここまでにしておきたいと思います。