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白鳥は哀しからずや・・・※若山牧水の恋と旅と歌③
白鳥は哀しからずや空の青海のあをにも染まずただよふ
果てしなく広がるあおい海と、その上に無限に広がる青い空。ひとつづきのように感じられる二種の青は、しかし互いに侵すことのない独自の色みを帯びて、水平線という一本の弧によってかぎられている。その間(あわい)を、どちらに拠ることもなく、独りただよいつづけている白い海鳥よ。お前は、哀しくはないのか。
孤悲(こひ=恋)に悩む歌人の心は、そう白鳥に呼びかけながら、かぎりない共感と切なさとを、孤高の鳥に投影している。牧水の名を不朽のものとする代表歌。第三歌集『別離』における一連の(第一歌集『海の聲』と『別離』に、ともに所収)、次に掲げる詞書も忘れられない。
<女ありき、われと共に安房の渚に渡りぬ。われその傍らにありて夜も昼も絶えず歌ふ。明治四十年早春>
ここで、「女」と記されているのは、牧水の生涯のありようを決定づけたと言ってもいい、小枝子という女性です。牧水はこの女性を愛している最中、文字通り人生のすべてをかけるほど夢中になっていたのですが、小枝子には結婚歴があり、すでに子どもまで生(な)している謎の多い女性でした。
この牧水鑑賞は、「若山牧水の恋と旅と歌」と題しているのですが、もうひとつ牧水には、欠くべからざる「酒」というキーワードがあります。酒はもとより牧水の愛するものだったと思われますが、小枝子との恋の悩みが、彼の酒量を増やしたであろうことは想像に難くありません。飲むほどに小枝子を思い、それゆえにますます深みにはまったであろう牧水の姿が、目に浮かびます。
それにしても、詩歌(しいか)の持つ調べ、そして言葉の力には、青春の懊悩を伸びやかに解き放つ、大きな魅力があります。もちろん牧水ならではの巧まざる言葉運びと天性のリズム感が、多くの読者を魅了してやまない彼の短歌の源泉なのです。
ひきつづき、牧水の短歌と青春を追って行きたいと思います。