高校生の現代文テスト対策 夏目漱石『こころ』・読解補遺②「御嬢さん(のちの妻)」の心情について<前>

 期末テストが、そろそろはじまる学校もありますね。ぎりぎりになってしまいましたが、「御嬢さん(のちの妻)」の心情について、考えてみたいと思います。このことは「下」の「御嬢さん」の時代と、「上」の「妻(さい)」の時代とに、分ける必要がありそうです。この「分ける」範囲においては、「御嬢さん」、「妻」と、呼称も分けることに致します。なお、「下」で「御嬢さん」(未婚)、「上」で「妻」(既婚)であることが不明な方は、ひとつ前の回「読解補遺①」冒頭の解説をお読み下さい。

1.「御嬢さん」の時代

 高校生のみなさんが気になる(途中すこしでも気になった)のは、「御嬢さん」が本当は「先生」と「K」のどちらを好きだったのか、というあたりでしょうか。もっとも「K」が自ら死を選んだあと、「先生」に疑いなく嫁いだわけですから、「K」の方をより好いていたとは考えにくいですし、「K」の死のあとまで読んで、「先生」と「K」のどちらを?と思う人は、多くはないでしょう。

 「お嬢さん」が結婚(するかも知れない)相手として考えていたのは「先生」だったと、この点は一応決めておきましょう。ではなぜ「御嬢さん」は、「先生」に、自分と「K」が接近しているのではないかと気を揉ませるような行動をとったのでしょうか。たとえばつぎのような場面です。

「下」二十六  (「K」の部屋で「K」と「御嬢さん」が二人で話をしているところへ帰宅して)私は一寸首を傾けました。今まで長い間世話になっていたけれども、奥さんが御嬢さんと私だけを置き去りにして、宅(うち)を空けた例(ためし)はなかったのですから。私は何か急用でも出来たのかと御嬢さんに聞きました。御嬢さんはただ笑っているのです。

「下」二十七  (上記引用の一週間後、また「K」の部屋に御嬢さんが「K」と二人でいて)その時御嬢さんは私の顔を見るや否や笑い出しました。

 「先生」と「K」が房州へ旅に行き、戻ったあとには、「先生」が帰宅した際たしかに「K」の声と「御嬢さん」の声を聞いたのに、「K」の部屋に入ると逃げて行く「御嬢さん」のうしろ姿だけを認めたとか(「下」三十二)、火鉢の火が消えている寒い部屋に帰った時、家には「K」と「御嬢さん」が不在で、さらに所在なさのあまり外へ出た「先生」が、連れ立って帰って来た二人に会う、などの場面があります。そしてその時、「御嬢さん」はただ笑ったり、どこへ行っていたかあててみろ、などと、「先生」に言ったりしました(「下」三十三、三十四)。

 これらの行動の裏にあるはずの「御嬢さん」の心情について、みなさんはどのように思われましたか。こうした時に、まだ若かった「先生」は、腹を立てたり、悩んだりしたのです。またこれらのことがあったからこそ、「K」の思いもよらぬ告白を受けたあと、「先生」は、「足を滑らした」のでしょう。 

 さて、こうして見て来た「御嬢さんの心情」に、ひとつの決まった答えをあてがうことはできません。ただ、「御嬢さん」と「先生」の恋愛が特別なテーマではなく(もちろん「先生」と「K」の関係が大きいのであり、また「先生」という人物の「我執」が本題)、「御嬢さん」自身も特異な人物ではありませんから、さして深読みをする必要もないかと思われます。すなわち、作品に描かれている通りの(「上」における「妻」の時期を含む)「御嬢さん(のちの「妻」)」の人物像から考えられる「心情」は、おおむね「先生」を結婚相手として意識していながら、その「気」を引きたい、というようなものだったのではないかと、考えてよいのではないでしょうか。もちろん多様な考え方がありえましょうが、大枠のところは、このようなとらえ方をしておきたいと思います。

 ひきつづき、「妻」の時代について、<後>をお読み下さい。

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