ふるさとの尾鈴の山のかなしさよ・・・   ※若山牧水の恋と旅と歌①

 ふるさとの尾鈴の山のかなしさよ秋もかすみのたなびきて居り   若山牧水

 第六歌集『みなかみ』所収の、代表歌の一首です。今日、すでに日付は変わってしまいましたが、8月24日が牧水の誕生日です。明治18年、1885年の生まれですから、128年前のこととなります。

 牧水は、明治から昭和にかけて石川啄木と並び、人口に膾炙(かいしゃ)した歌人でした。偶然ながら、啄木の若い最期をみとった枕元にも、牧水が侍しています。

 青春の苦悩と放埓(ほうらつ)、そして孤独を、はじめてあますことなく歌ったのが牧水だったと言っても、良いかと思います。「小枝子(さえこ)」という謎の多い恋人との恋愛、また苦悶を歌い、さらに旅ごころを五句三十一音の中に解き放った歌群は、『アララギ』が主流の大正期の歌壇では理論的に異端視されながらも、独自の光彩を放ち、多くの愛読者を獲得しました。

 掲出歌は、牧水の生家のある、宮崎県東臼杵郡東郷町坪谷(現日向市東郷町坪谷)の光景を詠んだものです。昭和48年発行で、昭和61年に買い求めた「牧水記念館」発行の『牧水のふるさと』という小冊子が手元にありますが、中央を坪谷川が流れ、その向こうに尾鈴連山のやわらかい山並みがのぞまれる「ふるさと」で、牧水の歌ごころがはぐくまれた年月を、なつかしくイメージさせてくれる佳景です。

 当時私は、23歳でした。この尾鈴山のおもむきにふれるため、日向市内に一泊し、バスにゆられてこの坪谷を、たずねました。今でも自分の魂の奥底に触れるものを感じさせてくれる場所であり、また、それ以上に心に残る、牧水の名歌です。

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